阿寒湖のマリモ

国の特別天然記念物 ”阿寒湖のマリモ”公式ホームページ www.marimo-web.org ○。マリモWeb ○。

”阿寒湖のマリモ”公式サイト
   
   
 

日本のマリモ・世界のマリモ

1.日本のマリモ

マリモはこれまで、細胞の大きさや形、藻の集合状態、礫に付着するかどうかといった性状を基準にして、多くの種類に分類されていました。ところが、DNAを用いた分子系統解析の結果、従前知られていたマリモ類とは、それまでの分類基準とは関係なく、マリモもしくはタテヤママリモのいずれかに属することが明らかになっています。

【分布地図A】日本国内におけるマリモの分布
※阿寒湖をはじめとする日本のマリモ湖沼の紹介記事は現在準備中です。


2.世界のマリモ

同じくDNAを用いた分子系統の研究によって、マリモは従来いわれていたユーラシア大陸だけでなく、大西洋の北に浮かぶ島国・アイスランドや北アメリカ大陸の五大湖周辺を含めて、地球の北半球を1周するように帯状に分布している実態が明らかになりました。しかし、マリモが大きな球状の集塊に発達し、なおかつ群生しているのは、阿寒湖とアイスランドのミーヴァトン湖だけに限られています。

【分布地図B】マリモの世界的な分布
※国名をクリックすると、詳しい情報が見られます。


世界のマリモ湖沼

1999年から2004年までに調査を行った欧米のマリモ湖沼の中から代表的なものを紹介します。

スウェーデン エストニア オーストリア

■アイスランド■

火山と温泉の湖
アイスランド北部のミーヴァトン湖は、溶岩流による川の堰き止めによって、約2300年前にできました。一帯は、活発な火山帯に位置しているため、周辺には大小の火山がそびえ、水蒸気爆発でできた無数のクレーターが口を開けています。

また、周辺はコケや灌木に被われた溶岩帯で、森林はほとんど発達していません。流入河川はなく、湖水は東岸から湧き出す温泉や伏流水によってもたらされています。こうした温泉や伏流水の影響で、湖の東の湖面は冬の間も結氷することがありません。

ミーヴァトン湖

ミーヴァトン湖。周辺には大小の火山がそびえ、蒸気爆発でできたクレーターが湖岸に点在している。湖面積は37km²で、阿寒湖の約2.8倍。平均水深は約2mと浅いことが特徴。

ミーヴァトン湖の球状マリモ

ミーヴァトン湖の球状マリモ。構造は阿寒湖と同じ放射型だが、小ぶりで柔らかい。写真はミーヴァトン研究所のアルニ・エイナルソン博士。

マリモの多様な生態
ミーヴァトン湖では、浮遊する糸状のマリモが湖の全域に分布しており、風波によって湖水の流れが生じるたびに、この糸状マリモの分布域が大きく変わります。また、沿岸の溶岩帯では付着生活するマリモが広く見られ、この塊が溶岩から剥離・浮遊して球状に発達するものと考えられています。

ミーヴァトン湖の球状マリモ群落

ミーヴァトン湖の球状マリモ群落。直径10〜13cmの球状体がおよそ2千万個あると推定された。阿寒湖では直径10cm以上のマリモは約90万個とみつもられているので、ミーヴァトン湖にはその約20倍のマリモが生育していることになる。2006年に国の保護対象種に指定された。

白いマリモ

白いマリモ。数十個に1個の割合で、表面だけが白く変色したマリモが見つかった。遊走細胞を形成して、これを放出したためとみられる。

生態系の中のマリモ
マリモは、光合成によって有機物と酸素を生成するだけでなく、微小な生物に生活場所を提供したり、水生動物や水鳥の餌として湖全体の生物を支える役割を担っています。特に、基礎生産力の乏しいミーヴァトン湖のような高緯度地方の湖沼では、多年生のマリモが一次生産者として生態系の中できわめて重要な位置を占めていると考えられています。

ミーヴァトン湖のハクチョウ

ミーヴァトン湖はヨーロッパを代表する水鳥の繁殖地として知られ、春から夏にかけてたくさんのカモやハクチョウがヨーロッパ本土や北アメリカから飛来する。マリモは、これら水鳥の餌資源として重要な役割を担っている。

アイスランドはマリモの島?
アイスランドでは、ミーヴァトン湖以外にも、マリモ生育湖沼が次々に見つかっています。球状マリモは今のところミーヴァトン湖だけに限られますが、なぜこの島にマリモ湖沼が多いのか、その理由を火山や温泉の存在から解き明かそうとする取り組みが始まっています。

シンクヴァトラヴァトン湖

世界で最も古い民主議会が開かれたことで世界遺産に指定されているシンクヴェトリル国立公園の南西に位置するシンクヴァトラヴァトン湖。アイスランド最大の淡水湖で、透明度が高いため深所まで着生型のマリモが分布している。


アイスランド エストニア オーストリア

■スウェーデン■

マリモの基準標本産地
『マリモはシオグサ科の一種で、学名をクラドフォラ・サウテリ(あるいはクラドフォラ・エガグロピラ)という』・・・およそ1世紀前に阿寒湖でマリモが発見されてから、ずっとこういわれ続けてきました。しかし、日本産マリモのDNAを解析した結果、マリモはシオグサ科ではなく、これまでまったく知られていない分類群(新科・新属)に属することが分かりました。

そこで、分類学上の所属と学名を検討するために、ロンドンのリンネ協会に保管されているマリモの基準標本を検分するとともに、このマリモが採取されたスウェーデンのダンネモーラ湖でマリモを再び採取して日本産と比較研究したところ、同一種であることが確認されました。

ダンネモーラ湖

ダンネモーラ湖。マリモに学名を初めて与えたカール・フォン・リンネが大学で教鞭をとっていたウプサラから30kmほど北にある。基準標本となるマリモが採取された18世紀前半には、近くまで海がせまっていたといわれるが、その後の土地の隆起と埋め立てによって、付近は牧草地や森林に変わっている。

マリモ糸状体

ダンネモーラ湖の湖底に散在する緩い集合に発達したマリモ糸状体。DNA解析の結果、日本産のマリモと同種であることがわかった。

正しい学名はエガグロピラ・リンナエ
また、マリモの最も古い学名は、カール・フォン・リンネが1753年に発表した「コンフェルバ・エガグロピラ(Conferva aegagropila)」ですが、学名を付けるための国際規約やマリモの系統分類に関する検討から、正しい学名として、1843年にキュツィングが与えた「エガグロピラ・リンナエ(Aegagropila linnaei)」を採用すべきであることが分かりました。

カール・フォン・リンネ

カール・フォン・リンネ(1707 - 1778)。スウェーデンが生んだ世界的な博物学者で、生物の種名をあらわす二命名法を確立した。

コンフェルバ・エガグロピラと命名した際のマリモの標本

リンネが1753年に刊行した『植物の種』の中で、コンフェルバ・エガグロピラと命名した際のマリモの標本(ロンドン・リンネ協会蔵)。直径は約2cm。採取されてから250年以上経っている。

エルケン湖におけるマリモ集合の形成過程
スウェーデンの低地にはマリモ湖沼が多く、岩場や砂からなる浅瀬などの環境がうまくそろったエルケン湖では、岩上に密生した着生型のマリモが塊状になったまま岩からはがれ、集塊に発達してゆく過程を容易に見ることができます。

エルケン湖

ウプサラの東40kmに位置するエルケン湖。湖畔にはウプサラ大学の陸水学研究所があり、研究・教育ステーションとなっている。

マリモの発達過程

エルケン湖で同所的に生育しているマリモ集合。1902年にドイツのブラントが唱えた「湖底で付着生活していたマリモ糸状体の基部細胞が枯死して着生基質からはがれ、遊離生活を送るうちにやがて球状のマリモに発達する」というマリモ球化説の実際を目の当たりにできる。


アイスランド スウェーデン オーストリア

■エストニア■

湿原のヤルベ・パイル
バルト海周辺は世界的にマリモの分布が集中する地域で、エストニアも例外ではありません。マリモはエストニアの絶滅危惧植物に指定されており、同国でいくつか知られるマリモ湖沼の中でも、オイツ湖は美しい球状のヤルベ・パイル(エストニア語で“湖の球”)を産する湖として知られています。

オイツ湖全景

エストニアの南部に位置するオイツ湖は、最大水深約4m、湖岸距離約6kmの浅く小さな湖で、湖南東部の水深0.3〜0.7mの浅瀬に球状マリモが分布している。

オイツ湖−トゥリン

緻密で美しいマリモを産するのが特徴で、調査したうち最も大きなものは、直径が17cmあった。写真はタルトゥ大学植物学生態学研究所のトゥリン・レイタル博士(現・ルンド大学)。

オイツ湖におけるマリモ集合の形成過程
オイツ湖のマリモの基本的な生活様式は、二枚貝の殻上で生活する着生糸状体です。この着生糸状体が集塊をつくったまま剥離・浮遊すると、集塊は粗い砂からなる湖底上で波動によって揺り動かされながら放射生長を続け、真球に近い球体に発達するものと考えられます。

オイツ湖−二枚貝

二枚貝の上に着生するマリモ糸状体。

オイツ湖−剥離した集塊

貝の殻上から剥離したとみられるマリモの集塊。

オイツ湖−湖底の球状マリモ

湖底の球状マリモ.球状のマリモを半分に割るってみると、内部はマリモ藻体が放射状に配列した構造を備えていることが分かる。

川にすむマリモ
マリモの生活場所は湖や沼ばかりではありません。エストニア中部のパルヌ川で岩石の上に付着するマリモを確認できました。高い山地をもたないエストニアでは、川の流れが穏やかで撹乱が少ないため、多年生のマリモが河川でも生育できるものと思われます。

パルヌ川

パルヌ川の流速は、毎秒10cmにも満たない。

パルヌ川−着生マリモ

河床から引き上げた岩石の表面は着生型のマリモで覆われている。


アイスランド スウェーデン エストニア

■オーストリア■

球状マリモが消滅した湖
オーストリアのツェラー湖は、ヨーロッパにおける球状マリモの生育地として有名で、1823年に20cmを超えるマリモが採集された記録があります。しかし、残念なことに、20世紀のはじめまでに絶滅したと考えられていました。

1999年の夏、岩石に付着するマリモ糸状体を再発見し、DNAを分析したところ、阿寒湖など東アジアのマリモと同一種であることが確認されました。

ツェラー湖−採取地

19世紀に球状マリモが生育していた記録があるツェラー湖の南西岸.同湖で球状マリモが姿を消した原因は、今世紀はじめの観光開発による湖水汚濁が原因であったといわれる。1960年代から湖水浄化に取り組んだ結果、今では湖水浴できるまでに水質が改善されている。

ツェラー湖湖底

ツェラー湖の西岸で見つかった、岩石の側面に付着するマリモ糸状体。


■アメリカ■

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